“バディ”と一緒にめざす資格合格、祝金がもらえて営業力強化もWin-Winな「リスキル」改革
株式会社アイズ総合(富山県富山市)
当コラムでも以前お伝えしたカッコいい制服改革をはじめ、企業ブランドイメージ刷新を図るユニークな取り組みが話題の株式会社アイズ総合(以下、敬称略)。
同社では「BASE PROJECT(ベース・プロジェクト)」と命名した一連の改革計画を、このほどSDGs宣言※として正式に制定・公表し、全社員参加による活動キックオフ・イベントが行われました。
※富山県SDGs宣言WEBサイト
https://www.sdgs-toyama.jp/pdf/?company_id=333
さてその内容は?といえば、またまた、おもしろアイデアが盛りだくさん。そんな中でも、特にユニークな事例として今回続報をお伝えするのが、「BUDDY(相棒)制度」です。
タッグ結成は自由なフリーエージェント制
BUDDY制度は、会社が指定する資格試験に挑戦する社員が、有資格者の社員を先生役として“バディ”を結成、あるいは受験者同士2人によるタッグも可能で、いずれも会社に事前登録を申請。
そのうえで見事、試験に合格すれば、両者に豪華金一封が贈呈されるという制度です。試験合格者には、給与の資格手当も加算されますから、ダブルで嬉しい仕組みはきっと家族からも応援が得られることでしょう。
何と言ってもこの制度の面白いところは、プロ野球界のフリーエージェント(FA)制のように相手を自由に選べるという社員の自律性を重視した仕掛けです。
「任せとけ!」先生役からの逆指名もあり?
BUDDY制度が発表された社内では、まだ資格を持っていない社員が一体だれをバディに選ぶのか、すでに話題になっているといいます。
合格祝金が先生役にも贈られるとあって、有資格者の先輩社員のほうから、「バディはおれに任せとけ!」という熱烈アプローチもあるとか?
それも面白味の一つとして、どんな組み合わせがどんな成果を成し遂げるのか、他の社員も興味津々のようですから、まさに企画の狙い的中です。
相棒の存在が、主体的な意欲引き出す刺激に
ライン工事や路面標示・道路標識などの交通安全施設工事を手掛ける同社の業界では、資格者の在籍数が営業力に直結するため、同社でも従来から資格手当を設けて取得を奨励してきました。
しかし、会社に言われたからという受け身の動機では、試験勉強を途中で挫折するなどして、いつまでたっても合格しない“ダラダラ受験”に陥ってしまうという残念なパターンは、どの業界でもよく聞かれる話です。
BUDDY制度なら、相手がいることで挫折せず継続できるモチベーションは高まることでしょう。他のバディとの競争意識や社内の注目度も、主体的な意欲を引き出す良い刺激になるはずです。
先生役の社員にとっても、教え子を見事合格させられるかどうかは、その後の評判と次なる指名に関わりますので、途中で投げ出すことはできない“自分ごと”意識が働くに違いありません。
リスキル戦略は、VUCA時代の重要テーマ
Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字から「VUCA(ブーカ)」と言われる予測困難なこの時代。SDGsにおいても「リスキル(Re-skill)」(まはたリスキリング、学び直し)が重要テーマの一つになっています。
社員に新しいスキルや知識を身に付けさせるリスキル戦略によって、VUCA時代のビジネス環境の急速な変化に対応し、企業のサスティナビリティを高める人材戦略が求められているのです。
BUDDY制度をリスキル戦略として見た場合、現行事業の営業力向上にとどまらず、将来の環境変化に対応するレジリエンス(強靭性)を強化する企業体質づくりとも言えそうです。同社が理念に掲げる「Looking at the present, Looking at the future(今をみる 未来をみる)」すなわち、社会変化に応じて自分たちも変わり続けるという強い意思がそれを示しています。
経産省「人材版伊藤レポート」でも紹介されている人的資本経営※では、企業の決算書には表れない人材という「資本」の価値を最大限に引き出す戦略こそが、持続可能な真の企業価値を創造すると提言されています。
※経産省「人的資本経営」WEBサイト
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/index.html
企業における人的資本情報の開示はすでに国際的な流れとなっており、米国では2020年より上場企業に開示が義務化され、国内でも2022年6月に内閣官房が「人的資本可視化指針案」を公開。7月までのパブリックコメントを経て正式公表されるなど、その重要性はますます注目されていくことでしょう。
経産省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」によると、社員の大胆な再教育とスキル向上が必要と考えている経営者は全体の5割近くに上るのと対照的に、自分では何ら学習や自己啓発をしていない人の割合は、日本が世界でもダントツのこれまた5割近いという調査結果が出ています。
一緒に成長する連帯感が、コミュニケーションを潤す
BUDDY制度はまた、仲間と一緒に成長できる達成感や連帯感が得られるという貴重な機会にもなります。この体験価値が、社員間コミュニケーションをさらに円滑化し、路上での息の合ったスピーディなチームワークに役立つに違いありません。
まさに、Win-WinなSDGs戦略の好例といえそうな同社のチャレンジですが、その成果を一年後にまたフォローアップしていきたいと思いますので、どうぞご期待ください。
当研究所も、引き続き同社の取り組みを全力支援してまいります。
株式会社アイズ総合
https://eyes-s.co.jp/
【SDGsへの貢献性】
〈ターゲットNo.4-4〉
2030年までに、技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる。
〈ターゲットNo.8-2〉
高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する。
〈ターゲットNo.17-17〉
さまざまなパートナーシップの経験などをもとにして、効果的な公的、官民、市民社会のパートナーシップをすすめる。