“働き方の多文化共生”で「物心の幸せ」実践―革新サービス生み出す多国籍協働の求心力は、和のフィロソフィー

株式会社ソフツー(東京都中央区)

クラウドやAI(人工知能)技術を活用したビジネス向け電話サービス事業を手掛ける株式会社ソフツー(以下、敬称略)。同社が自社開発し、2023年2月正式リリースした新サービスが、SNSやチャット全盛のデジタル化時代特有のある社会課題に画期的なソリューションをもたらすものとして、その将来性が大きな話題となっています。

その社会課題とは「電話恐怖症」。今や若手社会人の7割が苦手意識を持つという調査結果(2023年8月、同社調べ)からも、ビジネスコミュニケーションの主要手段である電話の適切な応対方法やスムーズな取り次ぎは、企業の顧客満足度や人材育成のうえで、重要性がひと昔前より数段増しているようです。

こうした課題に着目した同社の新サービスは、かかってきた電話の内容をAIが聞き取って判別し、必要な担当者への取り次ぎや不在時の折り返し応対を自動化する画期的なもの。その先進性もさることながら、働き方のSDGs研究所が注目したのは、一人の社員のチャレンジから商品化にまでつながったというオープンな企業風土です。

実は同社、中国出身の経営者をはじめ社員約40名の半数が外国人という小さな多国籍企業。約8カ国・地域に及ぶ異文化を一つにまとめ上げながら、どのようにして挑戦的で創造的な企業カルチャーを根付かせたのか、人手不足に悩みながら、なかなか外国人材活用に踏み出せない多くの中小企業に光明となる“働き方の多文化共生”の秘訣を、同社の鍾勝雄社長にインタビューさせていただきました。

文責:本保茂和(Chief editor)

働き方のカルチャーギャップが、ビジネスチャンスに

2006年に来日した鍾社長が創業を決意したのは、派遣のITエンジニア時代、優秀な同僚女性が結婚を機に退職したことに衝撃を受けたのが、そのきっかけの一つだったと言います。

「中国では、当時から仕事でも家事の面でも男女の差は少なく、多くの女性が活躍していた。それなのに、日本では有能な女性が途中でキャリアを捨てるなんて、なぜそんなもったいないことをするのか不思議だった。」

中国では、1990年代の企業民営化の流れの中で、働く人は2~3年で転職してキャリアアップしていくのが普通だったといいますから、つい最近まで終身雇用制度が当たり前の日本に来てみると、「会社は男ばかりで、女性は主婦に」という価値観のギャップは大きかったようです。

結婚退職に衝撃―「キャリアあきらめずにすむ仕事を」


そこで、国際通話サービス企業で働いてきた技術と知識を活かし、インターネットを活用して家にいながら仕事ができるサービスがあれば、女性もキャリアをあきらめずに活躍できるのではないかと発想。コロナ禍ですっかり定着したテレワークという言葉もない時代、在宅からでも利用できるコールセンター向けシステムを開発し、資金も人脈も言葉の壁も乗り越えながら、事業を軌道に乗せてきたそうです。

創業当初の大きな苦労の一つが「採用」。事業拡大には有能な人材獲得が不可欠です。ところが、募集しても応募してきたのはたった1人だったとか。「日本人男性にはほとんど相手にしてもらえず、人を選べない状況だった。」

創業当初、外国人材や女性登用で活路開く


困った鍾社長が、必要に迫られてターゲットにしたのが外国人材と女性でした。そもそも自身も海外出身とあって何ら抵抗感はありませんでしたが、「実際に働いてもらってみると、想像以上に優秀な人材が多いことを実感した」といいます。

当時はまだ今ほど外国人材や女性の登用が注目されていない時代、むしろ鍾社長はそれを自社に有利とみて、優れた海外出身者を獲得する採用戦略を推進。今となっては約8カ国・地域のメンバーがともに働く多国籍な職場へと規模拡大の経過をたどってきたわけです。

国籍の異なるスタッフが毎回入れ替わりで交流するランチ会

十人十色、シャッフル昼食会で異文化交流

共通語の日本語のほかにも、英語や中国語、ベトナム語、インドネシア語、ミャンマー語などさまざまな言語が飛び交う職場は、価値観も十人十色。そこで、会社が毎回異なる参加メンバーをセッティングし、国籍の違うスタッフと一緒にランチを取ってもらう取り組みを続けているのも、同社ならではのユニークな異文化交流の工夫です。

特筆すべきは、そのアイデアが入社間もない新人社員の提案から始まったことです。「いろいろな目線から、さまざまな発想が出てくる」という社風は、どのようにして培われたのでしょうか?

多様性を認め合うから、だれもが挑戦できる

「失敗を責めず、挑戦を褒める」という同社のコアとなる重要な価値観がしっかり共有されていることに、その理由があるようです。年齢や社歴、性別などに関係なくだれもが尊重され、一人ひとりが自分の意見やアイデアを主張し、恐れずに挑戦できる経営方針が徹底されているからこそ、人材の多様性という同社の強みを最大限に発揮できるわけです。

こうしたカルチャーなくしては、AIを活用した電話の自動応答・取り次ぎサービスという画期的な新サービスも生まれなかったのではないでしょうか。

「大手企業との共同開発が中断されていたプロジェクトに、一人の社員がチャレンジしたいと手を挙げてくれ、数カ月没頭して自社単独で商品化にこぎつけた。」

未来担う社会課題解決型ビジネス


同サービスは、リリースから10カ月時点で100件近い契約実績を記録。「電話恐怖症」対策だけでなく、少子高齢化による人手不足が深刻化するこれからの時代、非効率な電話業務はAIに任せ、人間にしかできないコア業務に人的リソースを集中できる社会課題解決型ビジネスとしても注目され、今や同社の未来を担う戦略商品として大きな期待がかかります。

出典:PR TIMES 同社プレスリリースより
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000029.000028096.html

挫折を経て、実践で根付かせた“三方よし”の精神

このようなオープンで挑戦的な企業カルチャーが実を結ぶまでには、挫折のドラマもあったようです。

拙速な押しつけで社員離反

7~8年前のこと、ある幹部社員から「会社の進む方向性が分からない」と言われた鍾社長。エンジニア出身で経営には自信がなかったと言いますが、持ち前の行動力で、すぐに経営学の大学院に入り1年間勉強。実践的な経営塾にも積極的に参加し、そこで、共感してやまない日本の偉大な先人経営者の思想と出会います。

それは「従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、社会の発展に貢献する」という、「社員」も「企業」も「社会」も三方よしの“和のフィロソフィ”。そこには、母国・中国ではすっかり薄れてしまったという孔子、老子などの大切な価値観が息づいていました。「今まで頭の中で形が定まっていなかった企業理念が、一気に言語化されたような感動を受けた」といいます。

その感動冷めやらぬうちに、自社ですぐ実践したいと社内勉強会や朝礼での輪読を敢行。国籍も文化も多様な同社であればなおさらのことですが、「自分の言葉でかみ砕いて話すこともできないうちに、受け売りで押し付けた」ことで、社員から反発を招き、多くの退職者を出す事態となってしまいます。

しかし、この苦い経験が、言葉だけでなく徹底した「実践」を重視するとともに、社員の声を「聴く」経営姿勢への転換につながる契機となったのです。

出典:同社ホームページより
https://www.softsu.co.jp/corporateIntro/#vision

「実践力」と「聴く姿勢」を徹底


具体的に言えば、「物の幸福」の実践のためには、従業員の平均年収業界トップをめざして毎年度の経営計画書に年収目標を明記。また、自分たちの技術で社会の役に立つ達成感や自己実現を通じて「心の幸福」の実践につながるよう、「失敗を責めず、挑戦を褒める」という物差しを人事評価基準にまで落とし込む徹底ぶりです。

「とにかく徹底することが重要」という社長の熱量が、言葉の異なる社員の心にも広く共感を生み、今となってみれば、一度は挫折したかに見えた日本的経営思想が、多国籍な同社の文化として、しっかり根付いているようです。

「安い労働力調達」から、「有能人材獲得」への転換

同社のような外国人材活用の成功事例は、他の国内企業においても増えているのでしょうか?

厚生労働省の「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」によると、外国人労働者数は、2022年10月末時点で過去最高の182万2,725人となっています。在留資格別にみると、永住者や日本人の配偶者等の「身分に基づく在留資格」が59万5,207人と最も多く、就労目的の「専門的・技術的分野の在留資格」が47万9,949人、「技能実習」が34万3,254人と続いています。

あらゆる業種業界が労働力確保に苦しむ中で、近年では介護や農業分野でも受け入れが進んでいます。また、新たな在留資格「特定技能」も、2022年は前年比5万人近いプラスとなっており、さらなる対象分野の拡大も決定されています。

動き始めている企業は、受け入れを活発化

つまり、動き始めている企業は、既に受け入れ態勢をどんどん活発化させている傾向が表れているようです。政府や自治体も、外国人材と企業とのマッチングや定着支援を充実させています。

今後も少子高齢化が進展する一途であることを考えると、受け入れに手をこまねいているばかりの企業は置き去りにされかねず、活用に積極的な企業との採用力格差は、ますます広がることが予想されます。

出典:厚労省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」より
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_16279.html

終身雇用時代とは一変したニッポン労働市場

かつて諸外国に比べて賃金水準が高かったニッポン。「外国人は多少の不満は我慢してでも稼ぐために働き続けてくれた」時代でした。しかし、現在は円安の進展でむしろ日本のほうが安い場合すらあり、少ない人材を取り合う労働市場の変化の中で、有能人材ほど納得できる職場を求めて転職するのが当たり前になりつつあります。

まさに終身雇用という日本独自のユニークな労働文化から、グローバルな人材獲得競争時代への転換を余儀なくされているいま、外国人材を「安い労働力」とみる考え方は、もう通用しないことが明白なのです。

「恐れず受け入れると、優秀さを実感できるはず」


一方、「有能な人材の獲得」という観点でみれば、「男女・国籍問わず採用の幅も数も広がるうえ、事業にグローバルな視点を取り入れることができる。また、将来的な海外進出にも有利」と、鍾社長はそのメリットを強調します。

しかし、社長が参加する経営者の勉強会でも、採用に困っているはずの日本人社長たちは「どう対応すればよいか分からないので、うちはちょっと・・・」と、外国人採用にいまだ二の足を踏む声も少なくないようです。

「遠く海外から日本へやってくる人材には優れた人が多い。どうせ日本人が採用できないんだったら、恐れずに受け入れてみれば、優秀さが実感できるはず。一度経験すれば、どんどん採用したいという考え方に変わっていく。」

社内では「さん」付けで呼びあい、気軽に話せる環境を大切にしているという鍾社長

多文化共生のカギは、「だれも区別しない」こと

そのうえで、働き方の多文化共生を成功させる秘訣について、鍾社長は「だれも区別しないことがカギ」と指摘します。

国籍、性別、年齢の差はあって当然。違いを尊重しながら、価値観や考え方は異なってもみんなが目線を一つにできる経営理念の求心力で、社会貢献の実践に挑み、自己実現を通じた「心」の幸せと、キャリアアップという「物」の幸せを追求する同社の好事例。これからの採用競争時代を生きる中小企業にとって、人材戦略の一つの道標となりそうです。

同社の次なる挑戦を、当研究所も引き続き注目してまいります。

株式会社ソフツー
https://www.softsu.co.jp/

【SDGsへの貢献性】

Goal5

〈ターゲットNo.5-5〉
政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参画及び平等なリーダーシップの機会を確保する。

Goal10

ターゲットNo.10-2〉
2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、全ての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する。

Goal17

ターゲットNo.17-17〉
さまざまなパートナーシップの経験などをもとにして、効果的な公的、官民、市民社会のパートナーシップをすすめる。

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